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叙情詩であり叙事詩であるタップダンス

19歳でNYにきてたくさんのタップダンサーに出会い、踊ることだけではなくていろんな話をきかせてもらった。
レッスンはダンススタジオだけであるのではなくて、カフェやレストランでふとした瞬間にきかせてもらった話のなかに学ぶことがたくさんあった。
それは、映像を見ているだけではまったくわからないことだったし、ましてネットなんかなかった時代なので人と話すことでしか情報が得られなかったのはむしろよかったのかもしれない。

いまあれから20年くらいの時を経て、自分の中であのとき聞いた話だったり、見て経験してきたことが自分がタップを踊る上で一番大切なことだったんだなとおもうと、
今天国にいった多くのタップダンサーたちを想い感傷的になる。

タップダンスはアメリカの重苦しい歴史が生んだ光と影を背負ったアートだ。
アメリカに住んでいると、いまだにその傷跡は深いんだなとおもうことは毎日のようにあるし、まったく解消されずに現在に来てしまったのだとおもう。
遡れば、ネイティブアメリカンの土地であったこの場所。
そして奴隷制によってアフリカからつれてこられた黒人たちの悲惨な状況を歌にして、リズムにして後世に伝えるための踊りがそもそもタップダンスの原型だった。
そして様々な人種が交ざりあいながらアメリカという国は発展してきたけれど、大きな光と暗い影を同時に築いてきたのだとおもう。

ハリウッド映画やミュージカルで観てきたタップに自分も大きな影響は受けてきたものの、
あの華やかなタップの世界にいま大きな違和感を感じるのは、現実に今もその重苦しい歴史が日常的に続いている中ではあまりに非現実的な世界に感じてしまうからだろう。

ぼくがNYではじめて観た、聴いたタップダンスはもっと今の瞬間を伝える、そしてそのダンサーの生き方を伝えるさりげなくもリアルな表現だった。その音になんども胸を打たれ涙した。

ロンチェイニーはもともとドラムを叩いていたが刑務所ではじめてタップダンスを習ったという。
ドラムとタップのリズムが同じだと彼は感じて、様々なドラムのルーディメントのリズムを足で演奏した。
PADDLE&ROLLというリズムはいまのぼくらのタップの基礎となっている。
晩年に彼は事故にあってしまい、足の切断の判断を迫られるが、それを断り最後までタップダンサーとして生きた。

スティーブコンドスは唯一白人として、黒人たちのタップダンサーの伝統的なHOOFERS LINEのなかで踊ることがゆるされたタップダンサーだった。
彼もまた『リズム』を重要視した。彼にとってルイアームストロングのようなトランぺッターのフレーズやメロディーもタップのリズムにとりいれた。
そして彼は練習をすることこそひとつの芸術の形であるといい、日々の練習は亡くなるまで欠かさず晩年も毎日滝のように汗をかいて練習していたという。
彼はパリでの公演で、20分にもわたるソロをし「最高の気分だ」といって楽屋に戻ったあと、楽屋で倒れ、そのままたくさんのタップダンサーに囲まれて息をひきとった。
すべての公演が終演したのちに観客にスティーブが亡くなったことがつたえられたという。

幼い時に厳しい労働条件のなか誤って片足をなくしてしまったペグレッグベイツやたくさんのタップダンサーたちの話を聞いた。それぞれのリズムはそれぞれのストーリーであった。

ついこのあいだまでそこにいてくれたバスターブラウンや,ジミースライドやグレゴリーハインズ、ハロルドクローマーたちがもうここにはいない。
けれど,彼らが生涯踊り、伝えようとしてきたことは,彼らが見てきた経験してきた、そして彼らも後世から学んできたリアリティだった。
ハロルドが晩年にベッドのうえでも足を動かし、リズムをくちずさんでいたことを忘れない。

いま自分が踊るという意味。日本人である自分がなぜ踊るのかということを深く考える。

なぜ僕はここまで惹き付けられ、NYにまできてタップを踊る人生を選んだのだろうか。

ぼくにとっての歴史、つながりはどのように生まれてきたのだろうか。

ぼくにとってタップダンスとはいつでもそのときの感情、そして今という時代のリズムを伝えるアートである。

それは限りないリアリティであり,これからもずっと続くであろう叙情詩であり叙事詩である。

今を生きる僕らはどんなリズムでどんなストーリーを伝えることができるだろうか。


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by kazthehoofer77 | 2016-02-11 22:41
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